気軽に頼める関係だからこそ、忘れたくない「善意」と「対価」のバランス。
家庭の中のささやかなトラブルが教えてくれた、大切な気づきの記録。

最近、リビングでWi-Fiが途切れることが多くなってきた。
契約している通信会社に相談したところ、新しいWi-Fi機器を勧められ、それが数日前に届いていた。中継器も一緒に注文していたので、まずはそれが届くのを待って、まとめてつなげることにした。
説明書を読みながら、本体の設定と周辺機器への接続はサクッと終わった。問題は中継器だ。そこからが、地獄の始まりだった。
AIに相談しながら、試行錯誤すること約3時間。チャッピーはもう同じ話を繰り返すばかりで、まったく埒が明かない。
こういう設定は、いつだって私の役割だった。家族の誰に相談するでもなく、いつも一人で解決してきた。
でも、今日は違った。
──そうだ。次女の旦那さん。IT系男子だった。
仕事の内容まではよく知らないけど、たしかプログラミングで何かを設定していると聞いたことがある。
以前、会社のPCを買い替えるときも一緒に家電量販店へ行って、あれこれアドバイスをもらったのを思い出す。結局あのときは悩みすぎて、HP制作会社のレンタルPCに落ち着いたけれど、彼の存在はとても心強かった。
思い立って、娘に伝言のLINEを送る。
「〇〇様、助けてー!
Wi-Fiの機械を新しくして、中継器の設定で詰んでる。
時間あるときでいいから助けてー!チャッピーに相談したけど解決しないし、説明書も意味プー。
えーん。時給1,000円、義母の尊敬の眼差し付きで!」
中継器なので急ぎの用ではなかったが、夜に二人で来てくれるという。
ホッと一息ついて、コーヒーをゆっくり味わう。
これからの時代、一家に一人はIT系男子が必須だわ──と、つぶやく。通い始めたプログラミング教室で目を輝かせている孫の姿が、ふと頭に浮かぶ。
「飲み物、好きなの買ってきて。後で振り込むね」とLINEを追加する。
私が使っているネット銀行には、「ことら送金」という機能があって、個人間の他行振込でも10万円以下なら何度でも手数料無料。家族間の細かなお金のやりとりも、1円単位で気軽にできる。だからもう、地銀には戻れない。
何かを「買ってくる」役目ばかりが損をする──そんな小さな不公平は、家庭の中にこそ潜んでいる。
お金にシビアな私だからこそ、身内との間でも“きっちり”が大事だと思っている。
(この感覚、夫はピンと来ていない気がするけど。)
夜になり、次女夫婦がやってきた。義息は説明書に目を通し、自前のPCを取り出して何やらコードを打ち始めた。思わず「プロっぽい」と口に出す。
隣に座る次女が、じっと夫の手元を見つめている。普段見ることのない“仕事をしている姿”に、ちょっとだけ照れているようにも見える。
「お母さん、〇〇様の時給8,000円だってよ」と娘がぽつり。
「いや、そういう仕事を取ってこいって会社に言われてるだけで、友達や親戚からはお金を取ってないんですよ」と、義息が少し照れながら答える。
──きっとこの子は、あちこちの“IT救急隊”として頼られっぱなしなのだろう。
気がつけば、自分の姿と重なっていて、なんとも言えない気持ちになる。
それでも、さすがの彼でも今回はかなり手こずっていた。気がつけば、2時間が経とうとしていた。
「ほら、やっぱり素人には無理だったじゃん」
「説明書もわざと分かりにくくして、設定業者呼ばせようとしてるんじゃない?」
そんな話をしながら、無言で作業を続ける義息を励まし続けた。
やがて、「できました。設定できて安心しました」と彼の声。
思わず、拍手。
「慣れれば、なんてことないんですけどね」と彼は笑ったけど、
その“慣れるまで”の試行錯誤がどれだけ大変か、私はよく知っている。
私は言った。
「一応、時給には足りないけど、5,000円、次女の口座に振り込んでおいたから、二人で美味しいの食べてね。
残りは、お米の現物支給で。
それから、こんなすごい技術、無料でやっちゃだめだよ」
技術には報酬を。善意の搾取には、NOを。
PTAや地域のボランティアで何年も動いてきた私は、やりがいだけじゃ心がすり減るってことを、もう充分すぎるほど知っている。
だから、どんなに小さなスキルでも「ありがとう」と「お金」は、ちゃんとセットであるべきだと思う。
(そのへん、たぶん夫の辞書には永遠に載らない。笑)
その善意に寄りかかるだけではいけない。
家庭のなかのささやかな出来事が、私に大切なことを思い出させてくれた。

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