家計簿を貼ったことで怒っていると勘違いされたまま、本当に話すべきことには触れられず終わるやりとり。
「もう質問はしない」と決めた日、私は静かに、決意の準備を進めていた。

昨夜、中継器の接続を終え、次女夫婦が帰ったあと、ポストを開けた。
いくつかの郵便物に紛れて、夫からのノートが届いていた。
期待は、もうない。
けれど、一応ページを開いた。
そこには、私が書いた質問への答えと、旧車に関する夫の返答が並んでいた。
目を通して、すぐに気づく。
私の意図は、今回も伝わっていなかった。
どうやら、家計簿をノートに貼ったことで「怒られた」と思ったらしい。
そのせいか、返事は的外れで、肝心な部分には触れていなかった。
お疲れ様です。
ノート、見ました。
車の件ですが、次は車検を入れません。
色々将来のことで、貯蓄して計画していたのに
オレが勝手に車のお金をつぎ込んでしまって
本当に申し訳ないです。
自分でした事に悔いています。
車を売って穴埋めします。
この件についての返事は必要ないです。
すみません!
ノートをめくり、夫の文字を目で追う。
「オレが勝手に車のお金をつぎ込んでしまって 本当に申し訳ないです。」
──「怒っていないよ。今回の問題はそれじゃない。」
私は、赤線を引き、その横にそう書き足した。
「この件についての返事は必要ないです。」
──「この話、終わりたいなら、もう話題にも出さない。」
そう記しながら、ペンを握る手に力が入るのを感じていた。
またか。
都合の悪い話はすぐに謝って、終わらせようとする。
その姿勢に、正直もううんざりしている。
言葉にすれば伝わると思っていた。
手紙やノートを通して、気持ちは届いていると、そう信じていた。
でも──伝わっていなかった。
旧車の修理や、乗り続けること自体に怒ったことなんて、一度もない。
ただ、自分のなかで整理がついたから、管理を○○さんに任せようと思っただけ。
それだけのこと。それすらも、伝わっていなかったのなら──もう、仕方ない。
私は、淡々と、夫婦の整理を考えはじめた。
事業も絡む話なので、急に動くわけにはいかないけれど。
でも、夫が「会社を移転したい」と希望している時点で、こちらにとっては有利な状況だ。
今はまだ、私の決意を表に出すタイミングじゃない。
そう自分に言い聞かせる。
夫からの回答もまた、期待外れだった。
今回も、丁寧に三択を用意し、さらに「自由記入欄」も設けておいた。
質問1.会社の移転時期
→ 3年以内
……その選択肢、自由記入欄に書く必要ある?
用意された三択のひとつを、わざわざ自由記入欄にコピー&ペーストしてくるような返事。
自由欄の意味が分かっていないとか?
いや、考える気がないだけかもしれない。
質問2.次女の結婚祝い
→ 30万円
これも、自由記入欄に書いてあった。(三択の中の一つの回答)
私は、「娘の人生の門出」くらい、もっと特別に扱ってくれることを期待していたんだろう。
100万円じゃなくてもいい。
でも、「考えた形跡」のひとつも見せてくれたって、いいじゃない。
質問3.毎月の振込額
→ 10万円
これは、生活費兼小遣いとして、夫に送っているお金の話だった。
旧車に係るお金と併せて、自分で管理してほしくて書いたのに──
現状のまま、変わらず、10万円。
自分ではお金を管理しようとせず、全部こちら任せのままにするつもりらしい。
質問4.積立NISA
→ 任せる
──はい、終了。
何をどう任せるのか。続けたいのか、やめたいのか。
何ひとつ具体性のない返事。
「丸投げすれば、どうにかしてくれる」
そう思っているんだろう。
そして極めつけは、ノープランなくせに「移転の希望はある」と書いてくるところ。
どうせ、細かいことは全部“遊民”がやってくれる──そんな期待が見え透いている。
私は、もう夫に理解を求めるのをやめることにした。
質問もしない。
期待しない。
積立NISAはやめる。
次女への結婚祝いは、表向きには30万円。
でも、私のポケットマネーから、こっそりもう少し包むつもりだ。
夫には、こう伝えた。
「沖縄の行政書士を赴任先で動かすには、旅費や交通費がかかるから、赴任先で探して」と。
電話では、
「大臣許可は悪目立ちするからイヤだ」
そう言っていたので、私は「許可換えに詳しい行政書士を探して」とだけ返した。
うちが取引している会社が建設業の許可で苦労している話をしたとき、夫は軽くこう言った。
「うちは、お前が簡単にとったよな〜」
──「簡単に?」忘れもしない。
本を片手に、何もわからない中で申請書を書いて、
県庁から三度も差し戻されて、それでも諦めずに提出し直した。
とても簡単だなんて思えなかった。
「だから、今後はプロに任せるって決めたの」
そう伝えた。
頼むばかりの人にとっては、「簡単」に見えたんでしょうね。
言葉の端々に、私の皮肉が滲んでいたと思う。
そして、2ヶ月後。
私は10日間、夫の赴任先に行くことにした。
「その時は、ちょっと美味しいご飯に連れて行ってください」
そう添えたのは、AIの添削で“かわいらしさ”を意識した一文。
一応、“裏方サポートに徹します”と書いた。
でも、私の中では、もう別のスイッチが入っている。
もし私が、本気で切れたら──
そのときは、どうなるか見せてやろうじゃないの。

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