愛は、いつの間にか毒に変わっていた。
それでも、夫に惚れたのは私だった。

明日は、待ちに待った「オフ会」。
その言葉を口にしただけで、
少し浮足立つ自分がいる。
朝から家事をこなしながら、
Bluetoothスピーカーに火を入れた。
選んだのは、Amazonの誰かがまとめたプレイリスト。
サザンの懐かしい響きに続いて、
子どもたちと車でよく聴いた、
2010年代の洋楽たちが流れてくる。
このテンポ、この声、この空気——
一気にタイムスリップするように、
当時の私が顔を覗かせる。
そういえば、80年代と90年代の曲はよくかけるけど、
2000年代だけがぽっかり抜けている。
きっとあの頃は、音楽よりも、
目の前の育児に必死だったんだろう。
サザン以外は、ほとんど洋楽。
言葉の意味なんてわからなくても、
体が自然に揺れる曲がいい。
楽しかった記憶に繋がる音は、
言葉よりも、ずっと力強い。
バブル世代の名残りかもしれない。
ふと、最初の結婚を思い出す。
相手はクラブで働く男だった。
ノリで付き合い、ノリで結婚した。
「まさか私が…」って思いながら、
実家に寄りつきたくなかった私は、
彼と暮らすことを選んだ。
だけど、子どもが生まれた瞬間に、
“優等生だった頃の私”が戻ってきた。
このままじゃダメだ、って。
それから、何度もお願いした。
「仕事、変えてほしい」と。
でも、彼は変わらなかった。
私は、未来のために彼を置いてきた。
バツ1になって、
初めて自分のことを“母親”として考え始めた。
それでも——
あの選択がなければ、私はきっと今も水商売で働いていて、
もう身体も、心も、壊れていたかもしれない。
だから、あの結婚にも
意味があったのだと思える。
今の夫との結婚は、
私が決めたものだった。
何者でもなかった彼についていったのは、
私の意志だった。
その彼が、両親のもとへ頭を下げに来てくれたとき、
私は、そこに愛を感じた。
だから、30年も続けてこられた。
……けれど今、
信じたい気持ちと、
心の奥で小さく首を振る自分が
同時にいる。
あの頃の私が願った未来と、
今ここにいる私が見つめている現実は、
いったいどこで
少しずつずれていったのだろう。
「旧車の売却益を、前妻との孫にあげてもいいか?」
その言葉に、
頭が真っ白になった。
それって、
私たちの未来を削って渡すってこと?
一緒に築いてきた30年が、
そんなふうに、
風に吹かれて流されていく感覚だった。
流れてきた、ブリトニーの “Toxic”。
まるで今の気持ちを代弁するように、
頭の中にこだまする。
愛し合ったはずなのに、
いつの間にか、
どこかで毒に変わってしまった——
自分でも気づかないうちに。
くそ、
惚れたのは、私だ。

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