
今日は、夫と二人で墓参りに出かけた。
例年、お彼岸の墓参りは、夫の仕事の都合で私と子どもたちだけで済ませていた。
今年もすでに彼岸は過ぎていたが、今回は夫の帰省が長めだったこともあり、「久しぶりに行ってみない?」と声をかけると、「いいよ」とあっさり返ってきた。
往復で6時間。気軽には行けない距離だ。
車内では、会社の話や従業員のこと、最近行ったライブの感想、それぞれの近況をぽつぽつと話した。
道の駅で買ったポーク玉子おにぎりを「懐かしいな」と笑ってほおばる夫の姿が、離れて暮らす日々と重なって、胸の奥が少しだけ締めつけられた。
墓に着き、花を供え、線香を焚く。
「本当に古くなってるな……お前の言う通り、建て直しも考えないといけないかもな」
夫の父が生前に建てたこの墓も、築40年以上。
漆喰は剥がれ、セメントも風雨に削られている。
周囲の新しい御影石の墓に比べれば、たしかに老朽化は否めない。
以前私は「近くに建て直したい。子どもたちに負担を残したくない」と伝えた。
けれど夫は「今じゃない」と言った。
その数ヶ月後、旧車の修理に600万円かけたことを、私はずっと引っかけたままだった。
「お金に余裕がないから、今は無理だよ(笑)」
「そっか。じゃあ、俺がもっと働かないとな」
そんなふうに笑い合いながら、私たちは墓を後にした。
「どこか寄りたいとこある?」
そう聞かれ、無印良品の布製スリッパが欲しいと伝えると、夫は一瞬不思議そうな顔をした。
「更年期を迎えてから、足の裏に熱がこもるようになってね。あれが一番、楽なの」
そう説明すると、すぐに車を走らせてくれた。
店舗の一角でスリッパを手にした私の横で、夫はスーツを手に取りながらぽつりと言った。
「娘の結婚写真を撮るまでに、痩せてかっこいい姿を残したいな」
「あら、あなたはいつだってかっこいいわよ」
自然に出たその言葉に、夫は少し照れて笑った。
言葉に詰まらず返せた。それだけのことで、私は少しうれしかった。
15時を過ぎるころから、夫のスマホが何度も鳴り始めた。
運転席の夫の横で、着信のたびにちらりと顔を向ける。
どうやら明日以降の仕事の連絡らしい。
休みの日も張りつめて働く姿に、「おつかれさま」と心の中でつぶやいた。
帰り道、不意打ちのように、夫がぽつりと話し始めた。
「この前の車を売った後の話……俺、仏壇のことで少し神経質になってるのかもな。
でもさ、お互い、もっとちゃんと話そう。
俺はお前と結婚したこと、後悔してない。感謝してる」
ハンドルを握ったままのその声が、まっすぐに胸に届いた。
夫にとって仏壇は“つなぐもの”なのだろう。
沖縄の家制度の中で、「後継ぎ」として背負わされてきた責任。
私にはすべてはわからない。けれど、あのときの彼の言葉には、長年の想いがにじんでいた。
私が更年期で心身ともに限界だった頃。
会社の経理は税理士さんに丸投げし、夫は何もわからないまま、右往左往しながら支えてくれていた。
きっと「感謝してる」という言葉の中には、あの頃の苦労や葛藤も、全部詰まっていたのだと思う。
以前LINEで同じ言葉をもらったことがある。
けれど今回は違った。
胸がいっぱいになったのに、私はつい、こんなふうに返してしまった。
「そうね……まだ気持ちは整理できてないけど。精神的慰謝料プラス100万円なら、考えてもいいかも」
ふざけた調子で言ったはずだった。
でも、どこか本気だった。
夫はきっと、旧車の売却益を本当に孫へ渡す。
そう思った瞬間、胸の奥が熱くなった。
「あの人はどうなるかわからないって言っていたけど、私はもう答えを知っていた」
気づいたときには、その言葉が口をついて出ていた。
自分でも、少し驚いていた。

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