【1000分の16日目】「またね」のあとで気づく、静かな疲れ
夫が赴任先に戻る日。
いつも空港まで送ってくれる息子が、所用で今回は送れないと言い、夫は空港行きの高速バスの時間を私に聞いてきた。
検索すればすぐに出てくるのに……。
そう思いつつも、スマホの検索画面を夫に差し出す。
昨夜、頼まれていた洗濯物を片付けていたとき、夫のボクサーパンツが尿漏れ防止仕様になっていたのを見て、驚いたことを思い出した。
プライドの高い人だ。「洗濯物を出さなかったのは、これが理由か」と察し、「はい、これ」と畳まずにそのまま渡した。
確実に、老いは始まっている。
私より7歳年上の夫。きっと、それを隠したかったのだろう。
いつも強がるその姿に、少しだけ腹が立つ。
これからさらに年を重ね、弱っていったとき、この人はどうするんだろう。
テレビにくぎ付けになっている夫の背中を見つめながら、ため息が漏れた。
高速バスの時間に合わせて、バスターミナルまで車で送る。
「じゃあ、またね」と手を振り合った。
しばらくして、飛行機に乗るタイミングでLINEが届く。
「お疲れ様。今、出発」
「お疲れ様。ありがとねー」と返す。
「ふう」
思わず漏れた、ため息。
気を遣っていないようで、きっとお互い、気を遣っていたのだ。
離れて暮らすふたりにとって、日常ではない“非日常”だった数日間。
今回は夫が上機嫌だったこともあり、無事に終えることができた。
あとで、LINE送ろう――
そんなふうに、また“素”に戻った自分がいた。
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