1000日の心のつぶやき

【1000分の73日目】Googleフォトがくれた、夫との二時間

遊民
遊民
現場監督の一言で改装の夢がしぼむ。落ち込みを抱えていた夕方、Googleフォトのリマインドがきっかけで、夫と二時間も話すことに——。

ガーベラライン

夕方近く、現場監督さんがやってきた。

「事務所の改装なんですが」

口にした瞬間、胸の奥がわずかに緊張する。

やりたいのは、上下水道の設置と内装の改装。

それが、どれくらい現実的な話になるのか、確かめたかった。

彼は、道路にある下水道の位置を確かめに外へ出た。

窓から見える背中が、やけに遠く感じる。

戻ってきた顔を見て、結果はだいたい分かった。

「事務所から下水道まで距離があって、費用がかかります。しかも指定業者だけしかできません。水道は延長できますが、中間にメーターを置いた方が……

淡々とした説明のあと、短く、重い一言が落ちた。

「将来、賃貸にとなると……トイレが設置できないのは致命傷です」

致命傷。

その言葉が、耳の奥で何度もぶつかり、反響して消えない。

本当は否定したかったが、なぜか頷いていた。

「改装はせずに、現状で”貸し倉庫”として貸すのがベストでしょう」

お礼を言い、扉を閉めた。

部屋の中は静かで、やけに広く感じた。

ご飯を作る気にもなれず、ソリティアで時間を溶かす。

赤と黒の数字が、私の現実を無視して並んでいく。

着信音。夫だ。

一度無視したが、また鳴った。

二度続けてなんて珍しい。仕方なく出ると、

「元気か?」と、何事もなかったような声。

「元気じゃないよ」とだけ返す。

「元気じゃないって、何かあったのか?」

今日のことを話すと、夫は即答した。

「そんなの自分たちでやればいいって話だろ。俺が工事するから大丈夫だよ。心配するな」

「落ち込んでるんだったら電話したら良いのに」

夫にしては珍しい気遣いの言葉だった。

「ん~、また考えすぎてるのかなと思って。話せなかった。少し落ち着いたら報告しようと思って。でも、今日話せたから良かった。そういう事だから」

切ろうとしたら、夫がふいに言った。

「数年前、色んなとこ行ったよな。あれ、懐かしいな」

確かに、あの頃は渋る夫をせがんで色んな所へ行った。

Googleフォトが知らせてくれたんだよ」——夫がそう付け加える。

今日の電話の理由は、きっとそれだ。

「また行きたいな」と言う夫に、
「楽しかったね」とだけ返した。

旅行の話に花が咲き、時間が過ぎる。

気づけば二時間。

こんなに長く、夫と電話で話したのは、たぶん結婚して初めてだ。

ガーベラライン

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遊民
はじめまして、遊民です。 「死ぬまでにゆる~くやりたい100リスト」からスタートしたこのブログは、ある日夫が発した何気ない言葉をきっかけに、「1000日後に離婚する2人」へと進化しました。 夫婦関係を見つめ直しながら、自分自身を取り戻す過程を綴っています。 離婚も視野に入れつつ、できれば理解し合い、笑って人生を締めくくりたい――そんな想いで、日々の気づきや挑戦を記録中。 同じように悩む誰かのヒントや希望になれたら嬉しいです。