【1000分の2日目】同じ気持ちじゃないって、こんなに苦しいんだ
明け方、うっすらと空が白んでいくのを、私はぼんやりと眺めていた。
眠ったような、眠っていないような――そんな夜だった。
あの一言から、ずっと心が止まっている。
「俺の孫に、残ったお金をやってもいいか?」
何度思い返しても、同じところでつまずいてしまう。 きっと、彼はもう返事を待っている。 でも、私の中にはまだ答えが見つからなかった。
“老後の楽しみに”と、自分に言い聞かせて我慢してきたあれこれを、 どうしても「なかったこと」にできなかった。
昼間は何事もないように過ごそうとした。 でも、心は重く沈んだまま。 夕方になっても、気持ちは動かなかった。
気づけば、スマホを握りしめていた。
私はLINEを開き、震える手で文字を打った。
昨日の孫ちゃんの件、〇がやってあげたい気持ちはわかるけど
とても悲しくて虚しい気持ちになりました。
無意識に相手の仏壇まで気にするほど心が残ってるんだなぁって思うと、本当に申し訳なかったです。
離婚させてしまってごめんなさい。
〇の気持ちをくみ取れるように、自分の感情を整理します。
送信ボタンを押した瞬間、涙が止まらなくなった。
間もなく、電話が鳴った。
画面に映る彼の名前。
でも、出たくなかった。
まだ、言葉にできるほどの整理はついていなかった。
それでも、鳴り止まない呼び出し音に、仕方なく指を滑らせた。
「泣いてるのか? あはは」
「お前、真剣に考えすぎだろ~」
「何もすぐって話じゃないのに。深く考える必要ないだろ、あはは」
笑い混じりの、いつもの彼の声。
でも、その軽さが痛かった。
私は笑えなかった。
「……ごめん。むかつくから切る」
そう言って電話を切った。
涙がまた、こぼれた。
「深く考えるなよ」
そう言われても、私は“深く考えてしまう人間”なのだ。
簡単に気持ちを切り替えられるほど、器用にはできていない。
確かに、私は私の孫にしてきたことがある。 彼も、彼の孫にしてあげたいと思う気持ち―― わからないわけじゃない。
それでも、私はどうしようもなく寂しかった。
同じように育ててきたはずなのに、 その「同じ」の意味が、どこかでずれているような気がしてならなかった。
仏壇を置くための家―― そこに込められた想いは、過去への祈り。 でも私は、その中には含まれていなかった。
私という存在は、今このときでしか見られていない気がした。
眠れそうにない夜だった。 私は、Kindleを開いた。
タイトルに目が留まった――
『考えすぎない練習』
まるで今の私に寄り添うかのように、ページが自然と開いていく。
「考えすぎて疲れる人」が、少しだけ楽になれる方法。
その言葉たちは、まるでそっと肩に手を置いてくれるようだった。
「もっと、軽くなっていい」
「もう、自分を責めなくていい」
読み進めるうちに、ほんのわずかだけれど、
心が少しだけほどけた気がした。
明日もまた、答えは出ないかもしれない。
それでも、今日を終えることはできた。
そんな小さな一歩でさえ、今の私には十分だった。
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