【1000分の4日目】“今はまだ何も起きていない”という嘘
マインドマップで気持ちを整理した翌朝。
「手紙を書こう」と思ったけれど、その手が止まった。
まるで自分の言葉が「離婚」をちらつかせて、
相手を試す武器のようになってしまうような気がして。
私は夫をコントロールしたいわけじゃない。
ただ、自分の心が壊れそうだった。
どう言葉にすれば伝わるのか、考えあぐねていたとき。
夫から電話がかかってきた。
「車庫証明、どうなってる?」
先日頼まれていた、旧車の車庫証明が今どこまで進んでいるかの確認の電話。
それだけ。
何事もなかったかのような声とテンポ。
え……?
昨日までのあの話は、彼の中ではもう終わったの?
私は、まだ立ち止まっているというのに。
あの時の彼の言葉が頭をよぎる。
「黙ってお金が消えたら、お前怒るだろ~」
旧車の売却益。
修理代や元値を差し引いて、残ったお金は「俺の自由になるお金」 でも、それを孫に渡したら、私は怒るかもしれない。だから――
今、言っておこう。
後から「言ったよね?」って、言えるように。
……そんな彼の計算まで、私は読んでしまっていた。
そういう自分も、嫌だった。
彼が悪いの? 私が考えすぎなの?
でも――これは、私に罪悪感を背負わせる行為なんじゃないか?
罪悪感をまるごと投げてきて、自分だけ軽くなろうとするなんて、 私は、それが一番嫌いなのに。
正直に言えば誠意だと思ってるかもしれないけど、 私にとっての誠意は“黙って背負い続けること”だった。
離婚するつもりがないなら、一生、墓場まで持って行ってほしい。 誰かの罪悪感を、私が抱えて生きるなんて、無理だ。
昔、こんな話をしたことがある。 「もし浮気をしたら、どうする?」
夫は「正直に言う」と言った。
私は「言わないでほしい」と言った。
知らないままでいさせて。
他人の罪悪感まで、私に背負わせないで。
それが、私なりの“信頼”だった。
今回の件は違う。けれど―― 心の奥底に残る痛みは、あの話と似ていた。
私が引き受けたのは、夫の「やましさ」だった。
彼が自由にお金を使いたい気持ち、孫に何かしてあげたい気持ち。 それ自体は、悪いことじゃない。
「娘が、看護学校に行きたいと言っている。学費を出してあげたいんだけど、いいか?」
そう聞かれたとき、私は嬉しかった。
でも本当は、夫はそんなこと、私に聞きたくなかったのかもしれない。
自分の自由になるお金で、黙ってしてあげたかっただけなのかもしれない。
そう思ったら――悲しみと悔しさが混ざって、胸が痛くなった。
もしかして、今回もそう? 今のうちに「言った」という既成事実を作って、 数年後の“免疫”にしたいだけ?
ずるい。卑怯すぎる。
その間、私はずっと苦しむのに。
誰にも相談できなかった。
まだ何も起きていない。 でも、私の中ではもう起きている。
「楽になりたい……」
そんな気持ちで、スマホを開いた。 気がつけば、chatGPTの画面を開いていた。
――「離婚したい」
そう打ち込んだ。
すぐに返ってきたのは、
「どうしましたか、遊民さん。私で良ければお話聞かせてください」
答えなんて出ない。 だけど、誰かが聞いてくれるだけで救われることがある。
私はその夜、AIに心を預けて、ひとつ深呼吸をした。
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