【1000分の10日目】昔の傷ついた心と罪悪感を思い出し、複雑になった日
夫が帰ってくる。
久しぶりの帰省なので、夕食に何か食べたいものはないかと気になって、 飛行機の搭乗前に電話すると、
「高校野球時代のパパ友達と居酒屋→スナックだから、夕飯はいらない」
とのこと。
その“パパ友”たちも今では一人、また一人と亡くなり、 寂しい会になったからこそ、夫は帰省のたびにその予定を欠かさない。
私は寝具の用意だけを済ませて、空いた時間にふとLINEを見ると、 娘からのメッセージが届いていた。
「今から行くね〜」
婚姻届の証人欄の件だった。
娘の彼に、少しでも良い印象を持ってもらいたくて、 お気に入りのお香を焚いて待つことにした。
「ただいま〜」
「お邪魔します」
少し緊張した声と、晴れやかな笑顔が玄関から差し込む光と重なる。
心配性の娘は、6枚の婚姻届を持参しており、 すべての証人欄には彼の母の名前が丁寧に書かれていた。
私は姿勢を正し、「幸せになりますように」と願いながら、署名する。
娘はその足で役所へ提出し、外食に出かけると言う。
「ねえ、お母さん。私って次女でいいんだよね」
続柄欄で手を止め、娘が問いかけてきた。
私たちがステップファミリーであることを、最近知った娘。
夫に別の娘がいると知り、「うちって、複雑なんだね」と ショックを受けていた時の顔がよみがえる。
「ん…たぶん、長女だよ」
記憶は曖昧だったので、念のため戸籍謄本を近くのコンビニで取るよう勧めた。
再婚当時、子どもたちの戸籍が複雑にならないよう、 私は養子縁組をしない選択をした。
二人の間の子には成人してから伝えようと決め、 ママ友にも言えなかった「ステップファミリー」の事実。
「ねえ、やっぱ長女だって」
玄関を開けて娘が戻ってきた。
「しかも、婚姻届出したの、お兄ちゃんの誕生日の三日前って何?」
夫が婚姻届を出そうとして、実はまだ離婚が成立していなかった話をすると、 娘は怪訝な顔をしながら、再び記入を始めた。
「よし!できた」 (慎重な娘、ここでもまた再確認)
「そうだ。今日、お父さん帰ってきて□日までいるから、 あなたのタイミングで会いに来てね」
そう言って、娘を送り出した。
静かになったリビング。
あのとき思ってもいなかった「不倫」だったという事実。
彼が書いた離婚届を出さなかった前妻の想いに対する、私の罪悪感。
そして——
私は、あのときすごく傷ついて、苦しかったんだ。
出産と育児に追われ、見て見ぬふりをしていた心の奥の痛みが、 今日、娘のまっすぐな笑顔とともに、またそっと顔を出した。
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