【1000分の12日目】墓参りとスリッパ、仏壇の話のその先に
今日は、夫と二人で墓参りに行った。
毎年、お彼岸の時期は夫の仕事が忙しく、墓参りは私と子どもたちで済ませていた。
今年も彼岸は過ぎていたけれど、今回は夫の帰省がいつもより長かったこともあり、ここ数年行けていなかった夫に「行ってみる?」と昨夜声をかけた。
すると、快く「いいよ」と返ってきた。
片道3時間、往復で6時間かかる距離。そう頻繁には行けない場所だ。
車内では、会社の話や従業員のこと、ライブの余韻、お互いの近況報告などで思いのほか会話が弾んだ。
道の駅で買った「ポーク玉子おにぎり」を「懐かしいな」と言いながら頬張る夫の姿に、遠く離れて単身で暮らす日々の背中が重なり、少しだけ胸が締めつけられる。
墓地に着き、花を手向け、線香に火をつける。
「本当に古くなってるな〜。お前の言う通り、建て直しも考えないとな……」
主人の父が生前に建てた墓は、もう40年以上経っていた。漆喰はところどころ剥がれ落ち、セメントも風雨に削られ、周囲の新しい御影石の墓と比べると、その老朽化は一目瞭然だった。
私は以前、「今、少しお金に余裕があるから、将来のことを考えて、家の近くに御影石で建て直したい」と伝えたことがある。
子どもたち世代に“宿題”を残したくなかった。
でも夫は、「タイミングじゃない」と断った。 (その直後に旧車へ600万円をつぎ込んだのを、私は忘れていない。)
「余裕がないから、もう無理だよ(笑)」
「そうか。じゃあ、頑張ってもっと働かなきゃな」
そんなやりとりを交わしながら、墓を後にした。
「どこか、行きたいところあるか?」
聞かれて、「無印良品の布製スリッパが欲しい」と答えた。
「スリッパ?」と眉をひそめる夫に、
「更年期を境に足の裏が熱くて。あれだと快適なの」と説明すると、
「なるほど」とすぐ車を出してくれた。
無印の一角でスリッパを手に取りながら、夫は近くにあったスーツを眺めていた。
「娘の結婚写真を撮るまでに、痩せてかっこいい姿を残す」
「あら、あなたはいつもかっこいいわよ」
そう返すと、夫は少し照れたように笑った。
たわいもないやりとりだけど、なんだか少しうれしかった。
15時を過ぎたころから、夫のスマホが何度も鳴り始めた。
運転中で気になったが、どうやら明日の業務連絡や週明けの予定確認らしい。
休みの最中でも、彼は忙しくしている。
そして、会話の合間。 夫がふいに口を開いた。
「この前の車を売った後の話……俺、仏壇のことでちょっと神経質になってるかもしれない。
でもさ、お互い、もっとちゃんと話そうな。
俺はさ、お前と結婚したこと……後悔なんてしてないよ。感謝してる」
前にLINEでもらった返事と被る。
「そうね……まだ私の中では整理できてないけど。精神的慰謝料プラス100万円なら、考えてもいいかもね」
冗談めかして言いながら、 そんな言葉が自然に出てきた自分に、少し驚いていた。
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