【1000分の13日目】息子のオゴリ飯と夫婦の会話が交差する帰り道
「明日、家族ごはん、する?」
昨夜10時ごろ、息子からLINEが届いた。
まだ起きていた夫に確認したら「焼肉」が食べたいらしい。
そう伝えると、近所のちょっといいお値段の焼肉屋さんを予約するからと誘いを受けた。
最近結婚した次女は、旦那さんとダンスのイベントが遠方であり不参加。
息子の初めてのオゴリに、彼の懐事情が気になったが、素直に言葉に甘えることにした。
「ご飯のあと、商工会時代の仲間のお店に行きたいんだけど」とお願いすると、夫は二つ返事で引き受けてくれた。
そして今日——
「今日は、予約できないらしいから、時間になったら入ってて。
少し遅れるけど必ず行くから」
息子からのLINE。
近所だったので、散歩がてら歩いてお店へ。
観光ブックにも載っているその店には、すでに列ができていた。
店員さんにお願いして、PC画面に名前と連絡先を入力してもらう。
待ち時間は「1時間後です」とのこと。
——1時間?夫は絶対に他の店に移りたがる……。
そう思って告げると、 「じゃあ、一旦家で待機しておこうか」と怒ることなく方向を変えた。
思わず「ハッ」と手で口を覆う。「え?なんかこの人、変わったかも?」
約束の時間から1時間後、息子もぴったり到着。
楽しく、でも少し遠慮がちな食事を終えたあと、私は息子に言った。
「この後、二人でスナック行くけど、行く?」
「明日ゴルフで早いけど、少しなら付き合えるよ」
三人で向かったのは、商工会時代の仲間がママをやっている小さなスナック。
カウンターに三人並んで、他愛もない話を始めた。
「家族仲いいね」
ママさんのそんな言葉が、なんだかじんとした。
お酒が飲めない私と息子。
代わりに、夫がボトルを入れてくれた。
SASライブからこじらせ気味の私は、サザンを熱唱。
それを見て、息子も桑田さんのモノマネで2曲披露。
「遊民姐がいたころはさ〜、商工会、めちゃ楽しかったんだよ〜」
ママさんの言葉に、夫が「また誘ってくださいよ」と笑う。
二人の会話を背に、私はそっとトイレへと立った。
戻ると、ママさんが私の目を見て、ふっと言った。
「遊民さん、すごく愛されてるんだね」
私は笑ってうなずいたけれど、心の奥では納得できないでいた。
そのままカウンターに戻り、さっきから歌っていた、歌の上手な人にトイレで仕込んできた100円玉をそっと差し出す。
「なに?」と怪訝そうにされたが 「投げ銭。うまいから」と返すと、その場が一気に和んだ。
それからは皆が財布から100円玉を出し合い、“投げ銭譲り合い合戦”が始まった。
ママさんが「この人、これでシラフなんだよ〜」と私を紹介。
笑い声が広がる中、夫も輪に入っていた。
「〇〇さんも歌ってくださいよ〜」
「俺が歌ったら、気持ち悪いって遊民に言われるんだよね〜」
「違う違う。上手すぎて気持ち悪いってこと!歌って、歌って〜」
場がどっと沸き、夫の元へコインが集まった。
「ね、〇〇家の飛び道具でしょ〜」
そう言うと、カウンターはさらに盛り上がった。
気がつけば、閉店時間。
お店を出て、タクシーを拾うためにふたりで歩いた。
「俺さ、更年期で何もできなかった頃を考えると、今の遊民、元気になってよかったな〜って、つくづく思う。ほんと、一人で遊び歩いてもいいから、もっと外に出なよ」
「こんな狭い地域で、夫の単身赴任中に遊び歩くなんて、何言われるかわかんないし。そんなことになったら、自分で自分を許せなくなるから、今でいいよ」
酔っ払いとシラフ。 深夜3時過ぎの帰り道、楽しくも少し切ない夜が終わった。