【1000分の38日目】かつて私を守った声と、甘い返事を重ねる日々
昨日、夫から「自動車保険の件、お願いします」と言われ、
今日はその書類を揃えてもらうために、LINEを送った。
「現在の走行距離、車検証必要です。
3台分お願いします。車検証を送るときは1台ずつでお願いします。
□/△までにお願いします」
返ってきたのは、OKのスタンプひとつだけ。
私はそれに、「よろしくお願いします」のスタンプを返す。
……保険外交員を変えると言い出したのも、
保険会社ごと乗り換えると言ったのも、すべて夫なのに。
それなのに、私が「よろしくお願いします」と送っている。
──どこまでも、夫に甘い妻である。
でも、今日は不思議と腹は立たなかった。
昨日の“クララが立った”現象の余韻かもしれない。
スタンプひとつさえ、少し可愛く思えてしまうくらいだ。
夕方、何気なくFAXを見ると、夫から車検証が届いていたのに気づいた。
いつもの私なら、すぐに処理に取りかかるところだけど、
その日はあえて、健康センターに向かった。
「期日にも余裕があるし、これは今やることじゃない」
そう思える自分が、なんだか頼もしかった。
話は、30年以上も前に遡る。
あの頃の記憶なんて、よほどの事がない限り、残っていない。
記憶力のいい私でさえ、詳細までは無理だ。
子どもたちとのバス旅行──
階上の親切な男の好意で、快適な旅になったことだけは覚えている。
従妹を交え、子どもたちがいたりいなかったり。
その親切な男の車で何度か遊びに行った記憶もある。
仕事と子育てに追われていた私にとって、
それは数少ない「息抜き」の楽しかった思い出として、今も心に残っている。
印象に残っているのは、従妹が家を出る少し前のこと。
夫に呼び止められ、こんな話を切り出された。
「従妹の勤務先の居酒屋のオーナーから聞いた話なんだけど……」
夫の顔は、少し真剣だった。
曰く、従妹が何度も前借をしていたため、オーナーが注意したところ、
「一緒に住んでいる従姉にお金をせびられている」と言い出したのだという。
それを聞いたオーナーは、知り合いだった夫に「遊民って、どんな人?」と尋ねたそうだ。
ショックで言葉を失う私に、夫は言った。
「俺は、遊民はそんな人間じゃないと思う。従妹が嘘ついてると思うよ。そう伝えといたから」
──そのひとことが、ものすごく嬉しかった。
そして、夫は続けた。
「遊民、もしかして……50円玉とか貯金してない?」
唐突な質問に、思わず「え?」と聞き返すと、
「オーナーが言ってたんだけど、従妹が50円玉だけで会計してたって」
確かに私は、財布に50円玉があると、子どもたちに貯金箱へ入れさせていた。
慌てて貯金箱を確認した。
中は空ではなかったけれど、どれだけ貯まっていたのか、今となってはわからない。
だから「従妹が盗った」と断言はできなかった。
それでも夫は、「注意した方がいい」と言ってくれた。
私は、「わかった、ありがとう」とだけ返した。
その後、従妹はいつの間にか、私たちの生活から姿を消していた。
そして──私と夫がふたりで遊ぶ理由も、なくなっていった。
関係は元通りになった。
変わったのは、挨拶にほんの少しだけ会話が添えられるようになったこと。
でも、それだけでも、なんだか十分だったのかもしれない。
いつも応援ありがとうございます。
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