【1000分の42日目】夜に支えられ、前へ進んだ日々
昨日、確認が取れなかったFreeeの画面を、今日、そっと開き直す。
同期をクリックし、数分間、画面を見つめた。……良かった。入金が確認できた。
その旨を夫にLINEで伝える。
ついでに、次女が「コロナだった」と報告したことも添えると、「何回目だよ」と、私と同じ反応が返ってきた。
しばらくLINEのやりとりが続いたあと、面倒になったのか夫から着信があった。
「もしかしてあなたも、コロナだったんじゃないの?」と私が冗談めかして言うと、
「いや、コロナでもインフルでもなかったよ」との返事。
次女は嗅覚がまだ戻らないらしい。夫も、体調はまだ万全ではないようだ。
「お大事にね」と声をかけると、
「デスノート、まだ届かないのか?」と夫が言った。
普通郵便だから、土日は配達されない。多分、週明けになるだろう。そう答えると、
「そっか……」と短く返し、電話は切れた。
──何か、重要なことでも書かれているのだろうか。期待と不安が胸に入り混じる。
今日も、思いは過去へとさかのぼる。
トラブルメーカーの従妹が消え、私たちは少しだけ「仲の良いご近所さん」のような距離に戻った。
私はというと、目の前の課題──自動車免許の取得と車の購入費用──に頭を悩ませていた。
どうする? この出費、どうやって捻出する?
預金は、引越しでほとんど使い果たした。
子どもたちの学資保険に手を付けるわけにはいかない。
私は、短期間だけでもダブルワークをしようと決めた。
職場はダブルワーク禁止。でも、背に腹は代えられない。
短期間で一気に稼ぎ、職場にバレる前に辞めてしまえばいい。
そう考えた。
元夫の母親は、ナイトワーク専門のベビーシッターをしていたので、相談したところ、無料で預かってくれると快諾してくれた。
本当に感謝しかない。元夫と知り合ったのは、この人に出会うためかもと思うくらいすごくありがたい存在だった。
元夫との結婚で得たものは決して多くはなかったけれど、あの人(義母)に出会えたことだけは、この縁がもたらした宝物だったのだと思う。
夜の仕事は、ひっそり始めたつもりだった。
でも「若い」「シングル」「髪が長い」「スリム」──ただそれだけで、店ではすぐに目立った。
実は、若い頃スナックで働き、1年でチーママに昇格したことがあった。
けれど「体目当て」に寄ってくる男たちをいなし続けるのが嫌で、その世界からは足を洗った。
まさか、再び夜の世界に戻ることになるとは思わなかった。
私は「飲めない設定」にして、お酒の量を極力減らした。
でも、キックバックのある日本酒ベースのカクテルだけは、時々口をつけた。
日本酒なら、沖縄の泡盛みたいにグイグイすすめられることもないし、むしろ「無理しなくていいよ」と言ってもらえた。
少しだけ、それに救われていたのかもしれない。
コミュニケーション力だけで、何とか場を回していた。
ママは「あなたは飲み専とは違う」と認めてくれて、
平日は深夜0時上がり、週末は閉店まで、帰りのタクシー代付き──私の条件も全部受け入れてくれた。
女同士の嫉妬はあったはずだ。でも、ママのお墨付きがある限り、誰も口を出せなかった。
深夜0時に店を出て、子どもたちを迎えに行き、帰宅すると1時は回っていた。
数時間の眠りのあと、また子どもたちを保育所に送り、自分の職場へ。
目まぐるしい毎日だった。けれど、短期間と決めていたから、一日たりとも無駄にできなかった。
若さと気力だけで、走り抜けていた気がする。
スナックで2回目の給料を手にした頃だった。
職場の上司に呼び止められた。
「……スナックで働いているって、うちに電話があったぞ」
廊下の空気が急に冷たくなった気がした。
一瞬、心臓が止まるような感覚だけが、全身に広がった。
もちろん、しらを切った。
「えっ? 従妹と間違えたんじゃないですかね〜?」と笑ってごまかした。
その日のうちに店を辞めた。
もともと長く続けるつもりなんてなかった。
免許の費用を貯めたかっただけで、実際、本業にバレた時点で終わりだと決めていた。
ママに事情を話すと、少し残念そうな顔をして、
「もったいないわね。あなた、この世界、向いてるのに」
と言って、私を励ましてくれた。
──運転免許の費用は、確かに貯まった。
車の費用は……必要なときに、きっと貸してくれる誰かがいるだろう。そう信じることにした。
あの頃の私は、ただ前に進むしかなかった。
泣いても、眠れなくても、立ち止まることは許されなかった。
それでも、あの夜の義母の手、ママの言葉、その小さな温もりが、迷いの夜に私を支えてくれていた。
今なら、あの頃の自分にそっとささやける気がする。
「よく頑張ったね。ひとりじゃなかったんだよ」と。
いつも応援ありがとうございます。
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